スピリット・オヴ・サマー
 そう言いかけて憧子の言葉が途切れた。憲治が、憧子の身体をそっと抱きしめていた。
「どんなに現実の中で流されそうになっても、俺は負けない。だって、憧子がくれた夏休みがあったから…。」
「…憲治、さん…、」
 憧子は膝を抱えていた腕を憲治の肩に回し、すがりついた。そして、彼女の塞き止められていた「惟い」が、涙とともに流れ出した。
「憲治さん、憲治さぁんっ!おらぁ、おらぁ、もう…っ、きっと、憲治さんとは会えねぇ、会ってももう、おらだって分がんねぇ!」
 慟哭だった。憧子の美しい顔が悲しみにゆがんでいる。
< 398 / 422 >

この作品をシェア

pagetop