だるま
車で人を轢いてしまった。
夜道、視界の悪い住宅地でのことだった。
とっさのことに無我夢中でハンドルを切ったので、車体はガードレールにめり込み止まった。
私はどうにか平静を意識しながら車から降りて、ボンネットに乗りあがった男に近づく。
ぴくりともしないその体を前に、いつかの救急救命実習を思い返していた。
意識を確認意識を確認意識を確認、ぎこちなく男の肩を小さく揺らして、声を掛ける。
自分で轢いた人間を目の前にして、私はなんて言ったらいいんだろう。
素朴な疑問は一瞬に頭のなかで膨らんでしまった。
私はしばらく、金魚のように口を閉じたり開けたりしていた。