だるま
「あ、の…、あのう…」
初めて男の裸を見た処女のように私はもごもごと喋るしかなかった。
男の目がゆっくりと開き、焦点が合わないまま、ぼんやりと虚空を見上げている。
弱く繰り返される息の合間に、言葉のようなものが出たり引っ込んだりしているが、それが意味のあるものとは思えなかった。
まさか遺言でも言おうとしているのだろうか。
これはなかなかにやばい状況なのかもしれない。
なんだか夢見心地だった頭のてっぺんから一気に血の気が引き、そこでようやく、しでかしてしまった事の重大さを思い知る。
その死んだ魚のような目が再び閉じないようにと、必死で男の体を揺すった。
「おきめください!」
大声で噛んだ。
そんなこと恥ずかしがってる暇もなかった。
気分は雪山に遭難した二人だ。
そうだ救急車、早く呼ばなければ。
車に戻り、助手席に置いていたバックを必要以上に引っ掻きまわして、震える手で携帯電話のキーをなぞる。
そこで指が止まった。
救急車って何番だ。