だるま
バランスが取り辛いのだろうか。
両手をまっすぐに突き出しているところなんて、不気味すぎる。
どの角度から見たって無闇に動かない方が良いのは明確だ。
私はもう一度座っているように声をかけた。
男は言うことを聞かない。
よたよたとしながらも、まっすぐに足は私を向いている。
怒っているのか。もしかして。怒ってる。
いや、まあ、普通に怒るだろうなあ。
関節が一ヶ所多い指とかあるからなあ。
暗がりのなか、男の顔はぼんやりとしか見えない。
しかし所々こちらの耳に届いてくる嗚咽。
泣いている。
泣きながら、ゾンビみたいに近づいてくる。
車から降り、私は後ずさる。
そして距離は縮まらない。
そうこうしているうちに、携帯電話は不様な電子音ひとつ残して、停止した。電池切れた。
どうしようどうしよう。
頭が真っ白になる。
よくわからない、分からないから、私は逃げた。