だるま
「ごめんなさい、わざとじゃないです」
土下座していた。
全身全霊をかけて土下座していた。
あたり一面、土と田んぼの中に唯一埋もれた農業用道路のアスファルトは、私の皮膚にへばりついて冷たさばかりを送り込んでくる。
男は私の目の前に立ちはだかると、荒げた息を整えた。
突き刺さる視線に耐えて、出来るだけコンパクトに土下座し続ける。
男がぐわりと両手を天高くかかげた。
やられる、とっさに腕で頭を覆って、次の衝撃に備える。
聞こえたのは、鈍い衝撃音だった。
男も土下座していた。
土下座する私の前で、それ以上に土下座していた。
それはもう見事な土下座だ。
見て欲しい、この三つ指のつき方、そして額が地面にめり込みそうなくらいの低姿勢。
そして男は言ったのだ。
「すきです。お友達からでもいいので、付き合ってください」
そう、一言一句、はっきりと言い放った。