だるま
教えてしまった。
メールアドレスを、教えてしまった。
電話番号だって教えた。
だって雲の間から差し込む月明かりに照らされた彼は、とてつもなく整った顔をしていたから。
泥にまみれた靴もよくよく見ればエルメス。さらにスーツはオーダーメイド。覗く下着はGUNZE。
女として、今年25になった女として、このチャンスを逃してはならない。
本能がそう叫んだ。
自分を轢き逃げした女を満身創痍の体で追いかけて、田んぼの真ん中で思いのたけを土下座で告白するなんて、普通は納得できない。
実は僕、極度のドMなんですっていう落ちをつけたとしても、はいそうですかって納得できない。
でもいい。それも飲み込む。
だって私29だもの。
さっき25てサバ読んじゃうくらい崖っぷちの29だもの。
なりふり構っていられない。来るものを拒んでいたら、老後は孤独死してしまう。