森林浴―或る弟の手記―




幼い頃から親がいない、というのも当てはまります。


私はここまできてようやく、彼女の名前を聞いていないことに気付きました。


私は震える唇を必死に開けました。


「修介……まだ、彼女の名前を聞いていないよ」


声の震えは隠せませんでした。


ですが、嫌な予感がしているのは私だけではないようでした。


何も知らないのは修介と正世、そして彼女だけです。


「飯田早苗、と申します。
飯田は、育った施設の園長の名字で、早苗は、親とはぐれた私の着物に書いてあった名前です」


彼女、早苗は静香な口調で言いました。



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