森林浴―或る弟の手記―
私は早苗の顔に耳を寄せ、その声を聞きました。
早苗はずっと同じ言葉を呟いていたのです。
「許さない」
早苗はそれだけを呟いていました。
恐ろしく低い声で、ずっと、許さない許さない、と繰り返していたのです。
それが、誰に向けての言葉なのかは、分かりませんでした。
修介はその場で泣き叫び、幸乃は止血に必死になっていました。
救急車が到着するまでずっと、早苗は同じ言葉を呟いていました。