森林浴―或る弟の手記―
私と幸乃は早苗の墓参りに行きました。
宗一郎には事実を伝えない。
私たちはそう決めていたので、早苗の墓参りに宗一郎を連れていくことはありませんでした。
早苗の墓は、早苗の納骨の際に作ったものでした。
飯田家、と彫られている墓を見る度に、本当は紫野家と名乗らせてやりたかったと思いましたし、今もそう思っています。
ですが、この時は宗一郎の手前、そういうわけにはいきませんでした。
早苗の墓の前に着いた時です。
私は驚きのあまり声を失いました。
「誰がこんなことを……」
隣では幸乃が声を震わせていました。
早苗の墓が真っ赤に染まっていたのです。
私はそれを見て、早苗が自害した光景を思い出しました。
近寄ると、それはペンキのようでした。
真っ赤なペンキが早苗の墓に掛けられていたのです。