森林浴―或る弟の手記―




いくら金持ちとはいえ、大富豪とまではいかない我が家。


車は黒塗りのものが一台あるだけです。


なので、その車を使わなくてはならない用事がある時は歩いて学校に行かなくてはならないのです。


こんな道を歩いたら、学校に到着するまでに怪我をしてしまう。


世間知らずな私はそんなふうに思ったのです。


ここは、母に車を出せるか訊いてみるか、もしくは学校をもう一日休ませてもらおう。


私はそう思い、屋敷の中へと引き返したのです。


扉を開けようとした時、使用人の若い娘に「どうされました?」と訊かれましたが、私は「ちょっとね」とだけ答えました。


そこにいたのが使用人頭であったなら、私は屋敷の中に戻してはもらえなかったでしょう。


中では凄まじい言い合いが繰り広げられていたのですから。


私はそんなことも露知らず、屋敷の中へと戻っていき、居間にあるであろう母の姿を求めました。


すると、父の罵声が耳に届いたのです。



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