森林浴―或る弟の手記―
父は小さく、そうか、とだけ言いました。
私は疑われなかったことにほっとしながらも、心臓がとてつもない速さで動いているのをどうにか止めようとしていました。
そして、それ以上に、居間の中の様子が気になって仕方ありませんでした。
覗こうかどうか悩んでいたその時、佐保里姉さんが悲痛な叫びを上げたのです。
「私は絶対に産みますから」
そんな大きな声は初めて聞きました。
ですが、父は耳を貸さず、すたすたと去っていったのです。
そのあとのことは知りません。
私は香保里姉さんに自室へと連れていかれたからです。
そして、香保里姉さんは私にこう説明しました。
佐保里姉さんは運悪く暴漢に襲われてしまった。
そしてまた運悪く懐妊してしまったのだ、と。
私はそれが嘘だと直ぐに気付きました。
だって、佐保里姉さんは家の敷地から出ないのです。
それがどうして暴漢に襲われようというのでしょう。
だけれど、私はそう、とだけ答えました。