森林浴―或る弟の手記―
二冊目
佐保里姉さんは家から更に出なくなりました。
新しい庭師の男は若く、端整な顔立ちをしていました。
私は直ぐに彼と仲良くなり、木々の色々なことを教わりました。
そして、森で休息を取るようにさえなったのです。
大好きな本を持ち出し、森の中で読む。
それが私の至福の時になったのです。
理由は他にもありました。
私の家族はおかしくなりつつあったのです。
部屋からもろくに出ない佐保里姉さんに、彼女を監視するかのような母。
常に苛立つ父。
そして、香保里姉さんに縁談が持ち上がったのです。
相手は皇族の遠い親戚に中るものだと聞きました。
そして、その縁談は本当は佐保里姉さんへのものだったというのを、使用人の陰口から聞きました。
あんな気持ちの悪い男と関係を持ったりするから、いい話もなくなってしまうのだ、と。
使用人は私が近くにいることにも気付かずに話していたのです。
佐保里お嬢様は狂っている。
その言葉を聞いた時、私の腹はふつふつと煮えたぎるようになりました。
それが怒りだとまでは気付きませんでしたが。