森林浴―或る弟の手記―
「香保里姉さんが嫁ぐこと、何とも思わないの?」
私がそう訊くと、佐保里姉さんは小首を傾げました。
陽の光が逆光となり、その表情はよく見えません。
「だって、佐保里姉さんに、ていう縁談だったのでしょう」
私はその言葉を言ってしまったのです。
佐保里姉さんから、小さく声が洩れました。
唸るような声です。
く、だったか、う、だったかまでは聞き取れませんでした。
ですが、確かに声は洩れたのです。
やはり、表情は見えません。