森林浴―或る弟の手記―
私は直ぐに失言だったと思いました。
ですが、一度出してしまった言葉を取り消せるはずもありません。
私はその場をどう取り繕うべきか必死に考えました。
だけれど、上手い言葉は見付かりません。
どうするべきか迷っていたその時、佐保里姉さんが静かに唇を開いたのです。
「私は、ずっと森の中で暮らしたいわ。このように、森林浴をして、それだけで生きていきたいのよ」
佐保里姉さんが普通の人に見えました。
そんなことは初めてで、私は驚きのあまり、佐保里姉さんの横顔を見ることが出来ませんでした。
なので、その時佐保里姉さんがどんな表情をしていたのかは分かりません。
庭師の青年はいつの間にかいなくなっていました。
そこには、私と佐保里姉さんしかいませんでした。
世の中で進んでいる戦況など知らずに、穏やかな時だと思えるような時間が流れていました。