森林浴―或る弟の手記―
私たち紫野家は田舎に屋敷を構えていました。
なので、度重なる米軍の空襲も何処か他人事のようでした。
ラジオや新聞で知る戦況はどれも日本が有利だと示すものばかり。
不利な情報は一切耳には入ってきませんでした。
私はこの戦争は必ず日本が勝つものだと思っていましたし、周囲の大人も口々にそう言っておりました。
それを信じないなど、出来るはずもありません。
日本のように小さく、貧困な国がアメリカに勝てるわけがない。
そう言って笑えるのは、今だから、です。
当時の国民や政治家はそんなことに気付いてもおりませんでした。
気付いた時には、戦争はもうかなり悪化していて、引き返すことなど出来ない状況下にまでなっていました。
空襲も増え、何処其処が焼け落ちた。
そんな話も耳にするようになったのです。