森林浴―或る弟の手記―
そんな折り、香保里姉さんの懐妊が伝えられました。
香保里姉さんが嫁いでいって、一年が経った冬でした。
両親は朗報に喜び、男児であることを神仏に祈りさえしていました。
良家との繋がり。
これが我が家にとってどれだけ大切なことか、この時の私には分かっていなかったのです。
華族といえば聞こえはいいですが、財産には限りがあります。
そして紫野家は元々下級武士に近い存在。
そして、華族としての体面を保つには膨大な金がかかるのです。
それでも父は華族の地位を手離すことを頑なに拒みました。
なので、この頃の我が家の家計は火の車だったのでしょう。
気付けば、使用人の数も半分以下に減っていました。