森林浴―或る弟の手記―
ですが、父はそれを私には見せないようにしていました。
ですが、気付くなというほうが無理な話です。
徐々に質素になっていく食事。
売り払われる家財や着物。
次々と屋敷を追われる使用人。
私はもう十一歳になっていました。
家の内情など隠されても気付けます。
私は更に勉学に励みました。
財産が底を尽きてしまえば、学校に通うことさえままならなくなるかもしれないからです。
私は少々世間知らずではありましたが、「貧乏」のいうものがどういうことかは知っていたのです。
それは、庭師の青年、嘉一さんのお陰です。
嘉一さんの生家は恐ろしく貧乏で、上のお姉さんは田町の遊郭に売られた、と言っていました。
嘉一さんも学校にも行けず働き、こうして庭師のところで修行を積んでいるとのことでした。