森林浴―或る弟の手記―
佐保里姉さんは私が幼い頃から、「言いたいことは口にしなさい」と言ってきました。
それはことあるごとにです。
私がお菓子を選ぶのを遠慮した時、母が買い与えてくれた服が好みではなかった時、その他にも色々です。
そのせいあってか、私は言いたいことは言えたし、ですがその必要がない時は黙っている少年でした。
今になって思えば、佐保里姉さんは自分に言い聞かせているようでした。
佐保里姉さんが自分の意見を述べたのは、妊娠騒ぎの時だけだったように思えます。
それ以外は特に両親の前では言葉すら発していなかったでしょう。
あの夜もそうでした。
私はてっきり、佐保里姉さんはあの時のように叫ぶと思っていたのです。
ですが、佐保里姉さんは小さく頷くだけでした。