森林浴―或る弟の手記―
「ですが、私は従わないわけにはゆきません」
こんなふうにおっとりと話す佐保里姉さんの声を聞くのは初めてでした。
二人の声を聞いていると、まるで他人のように思えました。
「何故ですか?」と嘉一さんの詰め寄るような声がします。
佐保里姉さんはそれに対して何も答えはしませんでした。
嘉一さんも同様に黙りこんでしまい、二人の間には風が揺らす草の音だけが響いています。
ますます私はその場を動けなくなりました。
二人の会話の行く末を気にしながらも、早く終わればいいのに、とも思っていました。