森林浴―或る弟の手記―



ですが、二人とも黙りこんだまま、口を開こうとしません。


流れる風に揺れる草と葉。


無言の空気を肌で感じているだけなのに、何故か二人は愛し合っているのだな、と思いました。


私はその時、生まれて初めて愛し合う男女の空気を感じました。


私の両親は見合い結婚だった為、とても愛し合っているようには見えなかったのです。


特別に仲が悪いわけでも、父が愛人を作っていたというわけでもありませんが、二人の間に愛を感じることはなかったのです。


香保里姉さんと義兄さんの関係も同じでした。


初めて感じる愛し合う二人の空気は、何とも温かったことでしょう。


「……駆け落ち、しませんか?」


その心地よい空気に身を任せていると、突然嘉一さんが口を開いたのです。



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