森林浴―或る弟の手記―
佐保里姉さんが何と答えるのか、私は気になりました。
酒屋に嫁げば、もしかしなくとも今よりいい暮らしが出来ます。
ですが、嘉一さんと駆け落ちなどしたら、待っているのは貧しい暮らしでしかありません。
嘉一さんはそれに慣れているからいいでしょうが、佐保里姉さんはどうなのでしょう。
この屋敷から殆ど出ずに育った佐保里姉さんです。
そんな暮らしに耐えられるのでしょうか。
まだまだ子供な私に、愛と生活を秤に掛けることなど出来ません。
私はただ、佐保里姉さんの返事を待ちました。
「……一緒になります」
佐保里姉さんの返事に驚きました。
そのあと、嘉一さんの嬉しそうな声がしました。
「絶対に、絶対に幸せにします」
嘉一さんははっきりとした声を出しました。
その言葉を聞き、私も嬉しくなりました。
嘉一さんはその言葉通り、本当に佐保里姉さんを幸せにしてくれるだろう。
そう思えたのです。
二人はそのあと、駆け落ちの段取りについて簡単に離してから別れました。