森林浴―或る弟の手記―
佐保里姉さんからの手紙から、義兄さんの話が消えました。
それがいつからだったかは、はっきりと覚えておりません。
私は義兄さんが徴兵されたことに気付いていなかったのです。
義兄さんは佐保里姉さんの美しさを噂で聞きつけ、一目拝みたいと思っていたそうです。
ですが、家から出ない佐保里姉さんを見れるはずもなく、それなら嫁にしよう、と思い立ち、知り合いづてに父に頼んだそうです。
駄目だと思っていた縁談は滞りなく進み、初めて佐保里姉さんを見た義兄さんは顔を真っ赤に染めたそうです。
そんな義兄さんを、佐保里姉さんは可愛く思った、と手紙には書かれていました。
佐保里姉さんもようやく幸せになれる。
私は何度そう思ったことでしょう。
そして、赤ん坊が誕生しました。
愛くるしい女の子でした。
手紙と一緒に同封された写真に写るその子は、佐保里姉さんに似た、本当に可愛い赤ん坊でした。