森林浴―或る弟の手記―
早苗は一歳になるかならないかの時だったでしょう。
先述の被害は全て、この日の前ふりだったのでは、と思えることが起きたのです。
一九四五年八月二日。
午前零時。
八王子にB―29が百六十九機来襲したのです。
終戦まで後十三日、と迫った日でした。
私はその報せを聞いた時、頭の中が真っ白になりました。
何故、と思ったのです。
何故、佐保里姉さんが住んでいる町に大きな空襲が。
こればかりは運命の悪戯であり、誰の指図でもありません。
死亡四五五人。
負傷二千人以上。
被災人口七千人。
焼失家屋千四〇〇戸。
それが、八王子空襲の被害でした。