森林浴―或る弟の手記―
貴族制度の廃止。
法の下の平等。
敗戦後、新たに作られた憲法には、そのような項目がございました。
私たちのような華族は皆、一斉に地位を失ったのでございます。
私は確かに紫野家の息は長くないとは思っておりましたが、こんな形で終焉を迎えるとは思いもよりませんでした。
ですが、然程衝撃や悲しみはなく、歴史の移り変わり、世の移り変わりとして受け入れることが出来たのです。
仕方のないこと。
そう考えながら、我が身の振り方まで思案した程です。
ですが、両親、特に父はそうではなかったのです。
長い間、華族という地位に胡座をかいていた父が、急にただの一市民などになれるわけがなかったのです。
法律が改正されてからというもの、父はめっきり鬱ぎ込んでしまいました。
母も同様です。
私は取り敢えず学校を辞め、そんな両親を見守りました。
ですが、まさかの出来事が起きたのです。