森林浴―或る弟の手記―
あの日、突然に我が家を解雇された嘉一さん。
「よく僕だと気付きましたね」と私が訊くと、嘉一さんは顔を綻ばせて答えました。
「坊っちゃんの顔を忘れるわけがありません。坊っちゃんは、佐保里お嬢様にそっくりですから」
そんなことを言われたのは生まれて初めてでした。
自分でも、似ているかなと思ったことはありましたが、周りの誰もそんなことは口にしませんでした。
奇行が目立つ姉と似ているなど、誰も教えたくなかったのでしょう。
私は嘉一さんに連れられ、喫茶店へと赴きました。
そこで、久しく口にしていなかった、美味しい食事をしたのです。
洋風の食事は全て初めて食べるもので、どれも美味しく、涙が出そうになりました。
私はそこで、嘉一さんが屋敷を後にしてからの生活を語りました。
嘉一さんは小さな相槌を打ちながら、私の話を聞いてくれていました。
今までの出来事を、ようやく振り返ることが出来たたことに、私は涙を流しました。