森林浴―或る弟の手記―
家も売り払ってしまい、佐保里姉さんからの手紙を待つことは出来ません。
一度、佐保里姉さんの嫁ぎ先である速水酒屋に行ってはみたのですが、そこには普通の家が経っていたのです。
近所の人に聞いて回ったところ、速水酒屋は大空襲で跡形もなく焼け落ちたとのことでした。
私はそれを聞いて愕然としました。
空襲からは何年も経ってしまっています。
今更そこから消息を探すことなど、無理に決まっていました。
本当はとっくに訪れたかった。
ですが、生活苦からそれは出来ませんでした。
私は何度も悔やみました。
終戦後に出した全ての手紙は佐保里姉さんには届いていなかったのです。
返事が来るはずもなかったのです。
ですが、私は佐保里姉さんと早苗が生きていると信じることにしました。
二人で、この日本の何処かで幸せに暮らしている。
それが、私の心の支えとなりました。