森林浴―或る弟の手記―
母の納骨も終わり、佐保里姉さんの腹は見る見るうちに大きくなっていきました。
私や幸乃はその腹に触れ、子供が動いてはおおはしゃぎしていました。
恐らく、この時が佐保里姉さんの一番幸せな時期だったかもしれません。
佐保里姉さんは何処までも不幸だったのです。
その日、私がアパートの前に着くと、中から話し声が聞こえました。
それは、佐保里姉さんと嘉一さんの声でした。
私は不意に、昔森で二人が駆け落ちを決めた時のことを思い出しました。
二人の声がその時のものと同じだったからです。
「私は、ずっと貴女だけを愛してきました」
嘉一さんは初な青年のような声で言いました。
「もう、昔とは違います。貴方には、奥様も子供もいる」
続いて佐保里姉さんの声。
私は昔と同じに、その場を動くことが出来ませんでした。
二人の会話の行方が気になったのです。