森林浴―或る弟の手記―
「俺は、全て貴女の為に生きてきたのです」
続く嘉一さんの言葉に私は驚きを隠せまんでした。
「貴女との駆け落ちの計画が露見して、俺は大金を渡され、屋敷を追い出されました。
俺はその時、心に誓ったのです。
この金で成功し、必ず貴女を迎えに行くと。
貴女が何処に嫁いでいても、そこより金持ちになって、貴女を奪ってみせると」
嘉一さんは、我が家を追い出された時、大金を積まれていた。
しかも、事業を興せる程の。
誰に、というのが私の疑問でした。
その頃既に、我が家は苦しくなり始めていました。
たかが、佐保里姉さんから引き離す為だけに、あの両親が金を積むでしょうか。
放っておいても、佐保里姉さんは嫁に行くのです。
まるで、金の為に嘉一さんが佐保里姉さんを捨てたと思わせる算段を組んだようではないですか。
「私は……ずっと、貴方が金の為に私を捨てたのだと思っておりました」
涙ぐむ佐保里姉さんの声。
何者かの計算は全て上手くいっていたようです。
「私はそう思わせて、一旦身を引きました。
必ずを迎える為に」
嘉一さんの思惑は途中まで上手くいったのでしょう。