森林浴―或る弟の手記―
五冊目
そこは血の海でした。
いつも嘉一さんが座っていた椅子には真っ赤な小さい塊があり、床は血で塗れていました。
一歩足を動かすと、ぴしゃ、と血を踏むのです。
とろりとした液体は、床一面に広がり、事務所の中は生臭い臭いで充満していました。
その臭いが鼻腔に届くなり、わたしは吐き気を催し、その場に吐瀉しました。
血の臭いはあまりに強く、私の口から出た吐瀉物の臭いなど、全く感じませんでした。
何度も込み上げる吐き気に、私は今にも倒れそうになりました。
事務所に転がる死体は三つ。
嘉一さんの奥様、子供、そして嘉一さんです。
椅子の上にあった小さな赤い塊は、お子様だったのです。
何が起きたのかはさっぱり分かりませんでした。
ですが、誰がこんな惨事を起こしたのかは直ぐに分かりました。