森林浴―或る弟の手記―




わたしは家のことは全て幸乃に任せ、仕事に集中していました。


嘉一さんの奥様が起こした事件のせいで減った依頼を、必死に集め、更に営業を重ねました。


それはもう目まぐるしい日々で、年月はあっという間に過ぎていきました。


正直、その間の記憶は曖昧です。


私はそれくらい、寝る間も惜しみ、働き通したのです。


はっきりと覚えているのは、我が子の誕生くらいなものです。


私の子は目元が幸乃に似た、愛くるしい娘でした。


私はその子に、正世、と名付けました。


正しく生きていって欲しい。


そんな願いを込めてです。


正世はその名の通り、清く正しく生き、今では四人の子供がいます。


優しい旦那と可愛い子供に恵まれ、今も幸せに生きています。


やはり、私の人生は幸せそのものです。


確かに辛い時期や過酷な鴇もありました。


ですが、老い先短い今が幸せなのだから、それでいいのでしょう。



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