アザレア
築三十四年と私や誠よりも六年早く、この世に生まれた木造二階建てのアパートには、かつて私が住んでいたお屋敷の面影など微塵たりともない。

目を細め、食い入るように古びた建物を見つめていた誠は何も言わず――それが逆に同情されているようで、私は人知れず奥歯を噛み締めた。


『君は確か、篠宮くんの……』

『はい、篠宮 誠です。夜分遅くにお邪魔してすみません』

チャイムに反応し、私を出迎えた父は、苦虫を潰す私の隣で深々と頭を下げる誠を見て驚いていた。


そして色褪せ、擦り切れた六帖二間の片部屋、居間に通すや否や、

『ご両親と話がしたいから、席を外して欲しい』

誠は私を隣室へと追いやった。


そして小一時間後、両親との話を終えた時。
知らぬ間に一企業の社長になったと言う誠から、私が誠の許に行く事を条件に、父の負債を全額援助すると切り出された。
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