アザレア
「どうした?」

ギリ、と痛む心に気を取られ、箸と茶碗を手にしたまま動かなくなった私に社長が問い掛けた。


「い、いえ! 何も」

ストレスが胃に出るのは、昔からの癖みたいなものだ。
その声に反応し、慌ててご飯を口にすると、

「っ!」

蝕(むしば)まれた不快感は心だけに留まらず――捌け口を探しているかのように、胃から込み上げて来た。


途端、派手な音を立ててテーブルの上を転がる食器。
椅子からフローリングへと崩れ落ちる体。

しかしそれに構う余裕などなく、私は口元を押さえ呼吸を整える。


「ちょ、大丈夫か!?」

食事を中断して駆け寄って来た社長が私の背中を摩(さす)り、そんな社長に私はごめんなさい、とうわごとの如く繰り返す事しか出来ない。
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