アザレア
病院に行くなんて何年ぶりだろう……。


昔は掛かり付けのお医者様が、自宅に訪れ診察してくれるのが主だった。
あまり縁のなかった場所を前に戸惑いを隠せない。


かと言って、いつまでも道端で立ち尽くしている訳にもいかず、強張る足を無理矢理奮い立たせ、ガラスの自動ドアを二回通り抜けると、天井から吊された白いプラスチックの案内板に受付の文字を見付けた。


初診だと言うと簡単な問診表を渡され、記入し終えたそれを保険証と一緒に窓口へ差し出す。


「では、お掛けになってお待ち下さい」

受け取った女性はちらりと横目で私を見ると、さも忙しそうに事務的な案内をし、私は言われた通り、老若男女問わず人が入り乱れるロビーに並ぶ長椅子へ腰を下ろした。
< 29 / 55 >

この作品をシェア

pagetop