アザレア
もし、これが夜の出来事だったなら、私は社長の申し入れを受け入れただろう。

会社での出来事ならば、甘受していた。


でも――今は日中で、私は日陰の身。

会社を離れた場所で社長の隣に立つ事は赦されない。


隠してくれる夜の闇を無くして、“私”は社長の中に生きられやしない。
日のあたる場所に“私”は存在してはいけないのだから。


手にしていたボストンバッグをぎゅっと抱きしめる。

詰め込んだのは、一年前、社長のマンションへ移り住む事になった時の物と同じ。
実家から持って来た最低限の日用品。

それと、社長のマンションで過ごした日々の思い出。
社長への想いを、ぐっと押し込める。
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