アザレア
なんで。
……どうして。

今現在も自分の名である筈の姓が、“旧”として扱われるのかが判らない。


反射的に社長を見ると、社長は私が腰を下ろすベッドの柵に付けられたプレートを指差して。

『……篠宮、五月……?』

そこにマーカーで書かれた文字を読み上げた私は、プレートを見つめたまま動けなくなってしまった。


そんな私を余所に――もしかしたら気付いていないだけなのかもしれないけれど――私からすれば場違いとしか思えないような質問。
つまりは受診する分野を『どちらにします?』と尋ねてくる看護師さんに。

問われているにも関わらず、ただ口を開閉するだけ。
声も発せずにいる私に代わって、答えたのは社長だった。


『……産婦人科で』
< 51 / 55 >

この作品をシェア

pagetop