アザレア
今の私にあるのは多額の借金だけ。
いくら彼が父の部下、だった人の息子と言えど、それはもう……遠い過去の話。


それに、私の父の失脚は彼の父にとっての失職を意味する。
彼の家庭にだって多大な影響を及ぼした筈だ。

それでもめげず、大学在学中に友人らと会社を立ち上げたと聞く。
あの日、偶然の再会が無ければ、彼が無理矢理にでも私をこの会社に引き込まなければ、私達は一生交わる事無い世界で暮らしていた。


だから、彼を名前で呼ぶだなんて、平社員でしかない今の私にはおこがまし過ぎる。

同じ学び舎で過ごしていたあの頃とは、何もかもが違う。


彼が上役である以上、彼から賃金を得ている以上、私は彼の望むままに働く他ない。

……あれだけの負債を肩代わりして貰ったのだから。
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