失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
そして痛感する。
わたしは、こうなった今でもまだ彼が好きだということ。
それもどうしようもないほどに。
どれだけ彼が酷い人かろくでもない人か分かった今でさえ、わたしの胸の中は彼への想いがとまらない。
まだ31歳と講師陣の中では割と若手の彼は教壇に立って落ち着いた声音で話し、誰を見るでもなく目の向きを変える。
単位を与える基準はいつも厳しく、学生の間では“鬼の前田”とまで言われる名物講師。
そんな彼とわたしは1年以上関係があった。
それがつい3日前に終わりを遂げたのだ。
――結婚が決まった。
だから別れて欲しいと突然言われた。
信じられなかった。
だって、わたしたちは、それまで至って普通の恋人だったんだもの。
けれど、そう思っていたのはわたしだけだったのかもしれない。