失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
彼の薬指にはまるシルバーリングはわたしから立ち上がる気力を奪った。
もう、どうにも覆せない事なのだとその指輪が云っていた。
彼はわたしよりも、出世を選んだ。
婚約者は彼が教師を勤める大学の教授の娘。
いつから交際が続いていたかなんて知りたくもない。
彼は何一つ言わなかった。
言い訳の1つや2つ言ってくれたなら…、とそこまで考えて首を横に振る。
どうだったというの、どっちにしろ結果は同じ。
あの時のわたしは何を聞いても受け止められる状態じゃなかった。
「ジャズに良くある奏法の中で一番ポピュラーなものはアドリブだが、作曲者がなぜ曲中にそのようなものを取り入れたのか、という観点から見てみようと思う。そうすると…」
わたしを呼んだ声、わたしに触れた手、わたしにくれたほほ笑み、わたしだけに見せる果てる時の表情。
何もかもが手に取るように思い出せるのに、もうわたしのものじゃない。