失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
わたしは…、彼を失った。
もう、彼の隣には居られない。
酒をのんで記憶をなくして目を覚ましても、事実は、何一つ変わらずただ目の前にあった。
机の上のノートや筆記具を乱暴にカバンにしまいこみ、わたしは席を立つ。
できるだけ目立たないように、彼がホワイトボードに板書し、こちらに背を向けている間に後ろのドアから出て行った。
鬼の前田の授業を途中で出て行く怖いもの知らずの生徒の出現に教室内からほんの少しどよめきが生まれ、扉を超えてきた。
「静かに」という彼の声もわたしの耳に届いた。
「うぅっ…」
抑えきれない嗚咽。
たかが男に振られたくらいでこんなことになるなんて…。
失くして初めて気付く大切さ、なんてありふれた言葉が
今、真の意味をもってわたしに突き刺さった。