失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
遠ざかる駅のホームが完全に視界から消えるまでわたしはドアに張り付くようにしてみていた。
――エリザのジャズシンガーが元気ないと、お酒までしおれちゃうからさ
羽賀さん、わたしがエリザでバイトしてるって知ってた…?
エリザで働いてるなんて一言も言ってないのに…。
もしかしてエリザに来ることがあるのだろうか。そういえば、彼の会社もエリザの近くだっけ。
入り口のすぐ傍の座席に腰を下ろして目をつぶる。
なんだか体がふわふわ浮いているような感覚がした。
きっとその通り浮かれてるんだ、わたし。
羽賀さんみたいなステキな人と一緒に食事をして。
先週の出来事から1週間も経ってしまったのに、嫌な顔1つせずにわたしのお礼に応えてくれた彼は、あの時には気付かなかったけれど、すごくカッコイイ人だった。
整った顔にくっきり二重の瞳は甘く、どちらかというとかわいらしい印象の人で話せば気さくで面白くて飽きることがなかった。