失恋レクイエム ~この思いにさよならを~

「お、キタキタ。こっちこっち!マユちゃん、紹介するよ。彼が今日出るチェリストの吉沢くん。吉沢くん、こちらはいつも出てもらっている時森さん」

いきなり言われ、振り向くとわたしのはるか頭上に吉沢くんという人の顔を見つけることが出来た。背、高い。少し光沢の入った黒シャツに黒パンツ、そして傍らにはハードケースに入ったチェロが抱えられている。

「どうも、初めまして。時森です」

「初めまして。今日は俺のワガママで譲ってもらってすみませんでした」

「いえ、お気になさらず」

 年の頃は30手前だろうか。大学生にはない落ち着いた雰囲気があった。彼はわたしと目が会うと満面の笑みを浮かべた。

「こんなカワイイ人だったんだー!やり手だって聞いてたからもっとガンガンのシンガーだと思ってた」

「やり手だなんて…酒井さんってばまたなんてこと言ってるんですかー!」

「なんて事って、嘘は言わないよ俺は」

嬉しいんだけど、恥ずかしい。

そんな風に言ってもらえるレベルじゃないもの。
まして、この人なんて音楽家です!って感じだし。

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