失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
見慣れたグレーのスーツに黒のネクタイ。
これといった特徴があるわけでもないのに、その人がエリザのドアから姿を現した瞬間に、わかってしまった。
こげ茶色の使いこんだ革のセカンドバッグを脇に携えて、彼は入ってきた。
ドクドクと胸が騒ぎ出す。
どうして…先生がここに…。
あり得ない現実に付いていけず、動くことも出来ずにわたしはただ汗でじっとりと湿った手を膝の上で握っていた。
冷や汗がぶわっと吹き出てくる。
そしてもっと最悪な事に、彼は一人じゃなかった。