失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
その後は話題を変えて話に花をさかせ、最後までお酒を飲まなかった羽賀さんはわたしを車で家まで送ってくれた。お酒を飲まなかったのはわたしを送っていくためだったんだ、とその時になって気付いて、また羽賀さんの優しさにじーんと胸が熱くなる。
「ありがとうございました」
「なんかごめんね、長いこと話し込んじゃって」
「とっても楽しかったです」
「エリザの演奏、今度は間に合うように行くから、また教えて」
おやすみなさい、を言って羽賀さんの車を見送った。
つい数時間前、わたしは人生で5本の指に入るくらい最悪な事態に居て、涙を流して胸を痛めていたのに、今のわたしの心は凄く穏やかだった。
もちろん、先生との事を想えばまだ胸はずきんずきんと痛みを思い出す。
それでも、今のわたしは笑ってる。
不思議な気持ちだった。
今までなんのつながりも持っていなかった羽賀さん。ひょんな事で偶然知り合ったその人は、わたしの身近な誰よりも今のわたしの気持ちをわかってくれている。
こんな事が、あるんだね。
この繋がりをわたしは大切にしていきたい。