失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
「ひゃぁっ」
「えっ……、あぁ、起きた?」
私に気付いたその人はタオルで頭をがしがしと拭きながらこっちへ近づいてくる。
ベッドのすこし向こうで止まり、少し気まずそうな顔を浮かべた。
ガサツに拭うタオルの向こうに見え隠れした顔はまだ若い。
シャワーの後の空けたての石鹸みたいなあの独特の香りが鼻先を通り、もうそれだけで居た堪れなくなる。
よくドラマや漫画で朝起きたらラブホで知らない男が横に寝ていたなんてあるけど、まさかそれが自分の身に起こるなんて…。
目の前のその人を直視できずにいると彼はそそくさと自分の身支度に入った。
「あ、あの…」
「ごめん、ちょっと時間なくて説明してる暇もないや。とりあえず、部屋の鍵だけは出てく時に締めてくれる?ドアポストから入れといてくれればいいから」
そして小さなテーブルの上にそれを置いて彼は「それじゃ」と出て行ってしまった。