失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
少しずつ
まだ、好きなんだな、と思う。
振られてからもう半年も経つというのに、彼女の姿が目に入ったり声が聞こえたりするだけで俺の意識は丸ごともっていかれる。それもこれも、毎日イヤでも顔を合わせなくちゃいけないからだ、と思い込むようにしている。
自分の未練タラシさを棚にあげて。
俺の失恋は、失恋と呼ぶにはあまりにも情けなくそして一瞬にして砕かれてしまった。
それ故に俺は未だに忘れる事も諦める事も出来ずに引きずっているのかもしれない。
俺が失恋した相手、皆川真琴は同じ職場の同期だ。
今ももちろん同じフロアで一緒に働いている。
入社して丸2年、そして3年目に突入するという時に俺は彼女への恋心に初めて気付いたのだ。
けれどその時、彼女にはすでに意中の相手が居て、俺の告白は泡のように弾け飛んだ。
そして更に俺に追い討ちをかけたのが、その相手だ。そいつはうちの社に移動してきた新しい課長。
俺は2年間も彼女のそばにいたのに、1ヶ月、いやたったの数週間で課長は彼女の心を掻っ攫った。
そいつが現れたのと、自分の皆川への気持ちに気付いたがほぼ同時期。
もし、一歩でも早く皆川の意識を自分に向かせていたら…。
もし、あの時あぁしていれば。そんな後悔が俺を泥沼の中に引き止める。
今でこそ思う。
今まで2年間ずっと一緒に仕事をしてきて、男として見られていなかったんだ、そんな奴が気持ちを打ち明けたところで結果は変わっていなかったんじゃないかって。
皆川の優しさのおかげで俺は彼女と職場でも同期として関わっていられる。もちろん今までどおり…とはさすがにいかないけど。
そして、もっと気まずいのが、彼氏である課長も同じ職場という事。
それに付け加えて俺が皆川を好きだったという事実も知っている。直接牽制された事も何度かあった。
課長も大人だから、会社で私情を挟むことは無いからまぁ、良いんだけれど。
なんで世の中上手くいかないんだろう、って八つ当たりしてしまう自分がどうしようもない。
俺だってもういい加減この泥沼の中から抜け出てシャワーでも浴びてキレイサッパリしたいところなのに。べっとりと纏わりついた泥は干からびてもなお俺に張り付いてなかなか取れてくれない。
『目一杯、引きずって悔やんで嘆いたっていい』
時森さんが言ってくれた言葉は少なからず俺の肩の荷を軽くしてくれた。きっと…ずっと、誰かにそう言ってもらいたかったんだ、とあの時にわかった。