失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
無理やり連れられた2次会で誰かが席を外した拍子に俺の隣にきた谷津さんが責めるでもなく言った。

さっきの一次会ではほとんど喋らなかった彼女からの言葉にぎくりとする。

「そ、」

「見てればわかります。さっきからなぁんかそわそわして時計もちらちら見てるんだもん」

―そんな事ないですよ。と否定の言葉を口にする隙もくれなかった。

仕方なく「仕事がまだ終わってないんです」とそれっぽい俺の言い訳も谷津さんは容赦なく切り捨てる。

「一次会の時はそんな感じじゃなかったのに?」

くすくすと笑って「ごめんなさい」と言う彼女は少しも悪びれていない。
それからさっき届いたソルティドッグを一口飲み、俺を見上げた。つるっとしたおでこがのぞくワンレンの茶髪ボブが良く似合っている。

「責めてるわけじゃないの。ただ、もし帰りたいなら私も一緒に脱け出せたら…って思って。実はもう飽きてきちゃって」

俺をけしかけて便乗しようって魂胆だったらしい。

「そうですか、いいですよ。じゃぁ抜けちゃいますか」

ちょうど帰りたいと思っていたけど2次会自体は盛り上がってるし理由もなく帰るのは気がひけてたところだったから、俺は谷津さんの提案に乗ることにした。

「谷津さん体調悪いみたいだから俺送っていきます」
「えぇー!もう帰っちゃうんですかぁ」
「これからいい所なのにぃー」
「ごめんなさい…ちょっと飲みすぎちゃったみたいなの」

いかにも気分悪いです、って雰囲気の谷津さん。
ついさっきまでソルティドッグをおいしそうに飲んでたのに良く言うよ。
 女ってこえぇ…。

「それじゃ、お先に」

何か言いたそうな館林さんに二次会のお金として5000円を渡し、俺たちは店を後にした。
駅までの道のりを二人並んで歩く。

酔いが程よく身体にまわっていた。
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