失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
「マユ、今日の飲み会参加するでしょ?講義何限まで?あたしは3限までなんだけど、一緒に行こうよ」
お昼を一緒に食べる約束をしていた結衣と学食で待ち合わせ。わたしはきつねうどんを、結衣は親子丼を頼み窓側の席に座る。
「うん、9時からバイトだからそれまでだけどね。今日は4限までだから、時間までどっかでお茶する?」
「いいね、そうしよ。久しぶりに話したい事いっぱいあるし」
科が違うから取っている科目も被ることがほとんどなくて最近は学食で会うか構内で会うかくらいしか顔を見ていない。
高校が同じだった結衣とはもう6年近い付き合いになるのに、わたしは彼女にさえ先生との事を話していなかった。
一連のわたしの落ち込みは彼女には彼氏に振られたとしか言っていない。
もう少し…自分の中で整理がつけば、言えるかもしれない。あの鬼の前田と付き合ってたなんて信じてもらえそうにないけどね。
「なぁに、思い出し笑いー?マユってばエローい」
「そんなんじゃないってば」
「ま、いいや。話は後でゆっくり聞かせてもらいまっす。じゃねー」
結衣と待ち合わせの場所を決めて、わたしたちはそれぞれの講義へと向かった。
次の講義は、先生だ…。
あれから…わたしと先生の関係が終わってからもう2ヶ月近くが経とうとしていた。
エリザに先生が来たのはあれ1回キリだったし、個人的な連絡はもうない。
「これらの作曲家たちが現代音楽を引っ張り、今のジャンルを確実なものへとしていった。中でも今日はタンゴの革命児と呼ばれたアストル・ピアソラについて少し掘り下げていこうと思う…」
先生の授業はいつも通り滞りなく勧められていき、ホワイトボードに書かれるマジックのこすれる音がキュ、キュ、と教室内を飛んでいく。
わたしはそれが消される前にノートに写し取るのに必死だった。
きっと…、時間が解決してくれる。
そう思えるようになったのは、つい最近。
それでもわたしは、相変わらず教室の一番後ろの隅の席に陣取って、彼からの距離をできるだけ遠ざけてる。
そうでもしないと、ふとした瞬間に込み上げてくるどうしようもない感情を抑えきれないんだ。
聞きなれた声はすんなりと耳から入り、胸の奥にある水面を揺らして溢れさせようとする。それが静まるのをわたしは息を殺してじっと待つ。
まだ、先生の事忘れられないのかな、わたしは。
あんな酷い別れかただったのに、嫌いになれないのかな。
憧れだった先生を追い続けて、ようやく想いが通じて…、舞い上がって1人夢見てただけなのかもしれない。
先生は、もしかしたらわたしの事なんて始めから遊びだったのかもしれない。
わかんない。
わかんないよ…、先生。