失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
グラス片手に和也がわたし達のテーブルにやってきた。彼も同じ大学で同じサークル。
うちのサークルはなんでも楽団とかふざけた名前で、オーケストラを吹奏楽風にアレンジしたりその逆にしたり、オペラを吹奏楽で、とかとにかくなんでもやるっていうサークル。

作曲科専攻の和也は主にその編曲を担っている主要メンバーだけど、声楽科のわたしはたまにやるオペラに出させてもらってる程度。

「飲んでますかー!?」

すでにほろ酔いの男の子が和也の後ろから抱きつくように絡んできた。
見たことない顔だから新入りか他の大学の子かな。
音楽大学では男子学生の人数が女子学生に比べると圧倒的に少ない。
だいたい全体の1、2割じゃないだろうか。

だからその分男子同士の結束は固くなるんだよね。肩身が狭いんだろうな。

「あ、コイツK音大のピアノ科3年」
「島村でっす。よろしくね~」
「あ、もしかして今度やるピアノコンツェルトの?」
「マユちゃん、ゆび指しちゃだめでしょ」
「ご、ごめんっ」

わたしってば驚いたからって思いっきり人差し指向けちゃった…。
それを瑠璃ちゃんがやんわりと手を添えて下ろしてくれた。
瑠璃ちゃんてしっかりしてるよなぁ。同い年とは思えない。
って、ゆび指すわたしが子どもなのか。
島村くんはといえば特に気にした様子もなく「うん」と頷いていた。

「今日は時森来ないかと思ってた」
「和也までそんなコト言うー?」

どんだけまわりに心配かけてるんだ、わたし。
最近まで友達まで気が回らなくて、そんなに心配されてたなんて知らなかった。本当に思いもよらなかった。

「佐々木にも言われた?」
「うん。結衣もねー心配だったって。その節はご心配おかけしました」
「ま、ちょっとは元気になったみたいで良かったよ」

まだまだだなーとちょっと反省。

2杯目のお酒を取りにバーカウンターへ向かい梅酒のロックを注文。さすがに混んでいて出てくるまで順番待ちをしていると、わたしの隣で待っていた人たちの声が耳に飛んでくる。

「けど前田のヤツもえらいのに捕まったよなー。今回だけはちょっと同情~」

前田、なんて名前は珍しくもないのに、つい反応して耳だけそっちに集中。

「確かに。相手が高嶋教授じゃ断れないもんねぇ」
「どうせ娘と結婚させて後継がせてー自分がその裏で操るって魂胆でしょ」

「ね、ねぇっ」

そこまで聞いて、わたしは思わずその人達に詰め寄っていた。

「それ、どういう事?」
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