失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
◆
「えっ、じゃぁ…付き合ってるんですか?」
嬉しそうな皆川のその表情に胸が押しつぶされそうになる。
彼女にとって俺はしょせん同期で友人どまりでしかないんだって思い知らされた。
ずきずきと痛む胸に気を取られていたら隣のこの女が皆川にむかって「えぇ、まぁ」なんて勝手な返事をしていた。
止める隙もなく。
「羽賀くんってば水臭いなぁ。そんな事一言も言ってくれなかったじゃない」
「いや、う、うん…」
呆気にとられそんな返事しか出来ないでいると、隣の悪魔はぐんぐん調子に乗ってきた。
「彼の会社の人とお会いできるなんて嬉しいなぁ。彼、会社ではどんな感じなんですか?」
誰が彼だ。ったく。
「羽賀は真面目にいつも頑張ってます。新入社員の指導にも熱が入ってるし、よくやってくれてますよ」
「課長…おだてたって何もでませんよ」
お世辞でも嬉しいことを言ってくれる。
「まぁ…たまに1人で背負いこみすぎる事があるから、そういう時は同期や先輩社員や上司の自分を頼って欲しいとは思ってる」
「は、はい…気をつけます」
くそ…カッコイイぜ藤森課長。
「良い上司じゃない」
横からニヤニヤ顔が肘でぐいぐい押してくるのを避けつつ、俺はビールを煽った。なんか、お世辞とは言え上司のこういう言葉というのを聞く機会はほとんど無いから嬉しいんだけど恥ずかしい。
…にしても、さすが異例の若さで課長に登りつめただけあるな、この人。よく見てるじゃないか。俺が1人でてんぱってるって事までお見通しなんて…自分の未熟さにほとほと嫌気が差す。
「課長って…」
今まで静かにうなずいていた皆川がしみじみと口を開く。
「わかってないようでちゃんとわかってるんですねぇ…」
「…おい、真琴。それ何気に失礼じゃないか?」
ぽかーんと呟かれた皆川の一言と課長の呆れきった態度に俺も谷津さんも笑った。
――真琴、か。
一時期、皆川が体調を崩すほど課長との関係に悩んだり、別れたりしたみたいだけれど、なんだかんだで上手くいってるみたいだった。
二人の間に流れる空気でそれがわかった。
お互いがお互いを思っているってこういう事か、と。
同時に思う。
好きな相手と想いが通じ合うというのはどれほどのものか、と。
俺にだって彼女は居たけれども、そこまで胸を焦がすことは無かった気がする。
ただなんとなく一緒に居て、好きだよとか甘い言葉を囁いて、それだけで満足していただけだったんじゃないかって、皆川への想いを抱いた時にそう感じた。
井の中の蛙大海を知る。
他人への想いは、こんなにも深くなれるものなんだ…って。
今までの彼女たちも俺なりに精一杯好きだったのに、想いの強さにはまだまだ限りが無く、俺の知らない領域にまで達してしまった。
コンパスを持たずして未開の地に足を踏み入れた間抜けな探検家みたいに路頭に迷ってしまったのかと思うと己の情けなさに滅入る。
そして俺は目の前で見つめあう二人を目にして初めて、ようやくコンパスを持っていない事に気が付いた。
皆川に振られてから半年以上も経ってようやく、だ。
「えっ、じゃぁ…付き合ってるんですか?」
嬉しそうな皆川のその表情に胸が押しつぶされそうになる。
彼女にとって俺はしょせん同期で友人どまりでしかないんだって思い知らされた。
ずきずきと痛む胸に気を取られていたら隣のこの女が皆川にむかって「えぇ、まぁ」なんて勝手な返事をしていた。
止める隙もなく。
「羽賀くんってば水臭いなぁ。そんな事一言も言ってくれなかったじゃない」
「いや、う、うん…」
呆気にとられそんな返事しか出来ないでいると、隣の悪魔はぐんぐん調子に乗ってきた。
「彼の会社の人とお会いできるなんて嬉しいなぁ。彼、会社ではどんな感じなんですか?」
誰が彼だ。ったく。
「羽賀は真面目にいつも頑張ってます。新入社員の指導にも熱が入ってるし、よくやってくれてますよ」
「課長…おだてたって何もでませんよ」
お世辞でも嬉しいことを言ってくれる。
「まぁ…たまに1人で背負いこみすぎる事があるから、そういう時は同期や先輩社員や上司の自分を頼って欲しいとは思ってる」
「は、はい…気をつけます」
くそ…カッコイイぜ藤森課長。
「良い上司じゃない」
横からニヤニヤ顔が肘でぐいぐい押してくるのを避けつつ、俺はビールを煽った。なんか、お世辞とは言え上司のこういう言葉というのを聞く機会はほとんど無いから嬉しいんだけど恥ずかしい。
…にしても、さすが異例の若さで課長に登りつめただけあるな、この人。よく見てるじゃないか。俺が1人でてんぱってるって事までお見通しなんて…自分の未熟さにほとほと嫌気が差す。
「課長って…」
今まで静かにうなずいていた皆川がしみじみと口を開く。
「わかってないようでちゃんとわかってるんですねぇ…」
「…おい、真琴。それ何気に失礼じゃないか?」
ぽかーんと呟かれた皆川の一言と課長の呆れきった態度に俺も谷津さんも笑った。
――真琴、か。
一時期、皆川が体調を崩すほど課長との関係に悩んだり、別れたりしたみたいだけれど、なんだかんだで上手くいってるみたいだった。
二人の間に流れる空気でそれがわかった。
お互いがお互いを思っているってこういう事か、と。
同時に思う。
好きな相手と想いが通じ合うというのはどれほどのものか、と。
俺にだって彼女は居たけれども、そこまで胸を焦がすことは無かった気がする。
ただなんとなく一緒に居て、好きだよとか甘い言葉を囁いて、それだけで満足していただけだったんじゃないかって、皆川への想いを抱いた時にそう感じた。
井の中の蛙大海を知る。
他人への想いは、こんなにも深くなれるものなんだ…って。
今までの彼女たちも俺なりに精一杯好きだったのに、想いの強さにはまだまだ限りが無く、俺の知らない領域にまで達してしまった。
コンパスを持たずして未開の地に足を踏み入れた間抜けな探検家みたいに路頭に迷ってしまったのかと思うと己の情けなさに滅入る。
そして俺は目の前で見つめあう二人を目にして初めて、ようやくコンパスを持っていない事に気が付いた。
皆川に振られてから半年以上も経ってようやく、だ。