失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
休憩から戻ると、皆川からメールが届いていた。
今日の飲み会忘れてないよね、という念押しメールだった。
同期4人で飲むのはそういえば確かに久しぶりかもしれない。
俺が酔って皆川に告白しそうになったあれ以来もう半年以上経っている。
きっと、みんな俺に配慮してくれていたんだろう。
そんなことにも気づけないほどに自分が恋愛でダメージを受けていたと思うと本当に情けなくなる。
了解とだけメールを返して俺は仕事をはじめた。
久しぶりの飲み会という楽しみと、皆川の目を見て話せるだろうかという不安の両方が俺の胸をざわつかせた。
「かんぱーい!」
「おつかれ~!」
カーンとジョッキのぶつかる音が耳に心地よく響く。
皆川の華奢な手がもつグラス、黄金色の液体が揺れ、きめの細かい泡が縁からこぼれそうになったところで彼女の口に吸い込まれていった。
その様を視界の端にとらえながら、俺は、案外落ち着いていた。
もっと揺れるかと思った俺の心は静かに乱れることなくそこにあった。
そのことに安心した俺はビールを一気に流し込んだ。
「良い飲みっぷり羽賀~、聞いたわよぉ、谷津さんと付き合ってるって~!」
今日は河辺の大声も気にならないほど店内はとても賑わっていたけれども、テーブルはそれぞれすだれや仕切りで区切られていて周りの目をきにしなくていい。
絶対聞いてくるだろうなと予想していた俺ははいはい、と流す。
それでも喰いついてくるのが女ってやつだ。
「谷津さんていい女だものね~。羽賀にはちょっと手におえないと思ってたけど、意外だわ~」
しみじみと河辺が言う。
それに皆川はうんうんと首を縦に振った。
隣の志村はというと会話に入る気が無い様で黙々と酒と料理を口に運んでいた。
事情を知っている唯一の友はいったい何を思っているんだろうか、と不思議になる。
「すっごいきれいな人だった!」
「でしょでしょ~!」
きっと心から祝福している皆川のその嬉しそうな顔をみてもへこまない自分がいた。それよりも、またこうして同僚として飲めていることが何より嬉しかった。
「出来る女って感じ!」
「すごいやり手みたいよ、商品知識も半端なくてお客さんからの評判もダントツだって、ね、羽賀」
「あ、うん。相当仕事できるよ、彼女。話聞いててもわかる」
勝手に盛り上がる女子の話に適当につきあいつつ酒をすすめる。
嘘をついている、というか、谷津さんの嘘に付き合っているというか…、皆川に本当のことを言わない事だけには多少良心の呵責はあるものの、お互いにとってはプラスなのだからこのままでいいと思い、そこそこに話に乗った。
男相手では情報がなかなか引き出せなくてつまらなくなった様で、気づけばいつもの仕事の愚痴に話は変わっていった。
きりの良いところでトイレに立つと、思いがけない人物に出会った。
時森さんだった。
トイレへの道の途中、男性と二人で話す彼女の姿。
最初は時森さんと気づかず、ただ単に男性が女性を口説いているような居酒屋ではよくあるような1ページだと気にも留めなかった。
「まだみんな飲んでるし…」
二人を通り過ぎたときに聞こえた彼女の声が俺を思わず振り向かせた。視界に入った女性は確かに間違いなく時森さんで、彼女もこちらを捉えた。
目があったが、男が一歩彼女に近づいたため、彼女も一歩下がり壁に背をぶつけた。一瞬合った彼女の表情は決して喜んでいる顔ではなく、不快感をあらわにしていた。
「いいじゃん、二人で抜け出そうよ」
トイレのドアを押す俺の耳にかろうじて届いてきた声は、酒のはいったねっとりとした男の声だった。
どうしたものか。
今日の飲み会忘れてないよね、という念押しメールだった。
同期4人で飲むのはそういえば確かに久しぶりかもしれない。
俺が酔って皆川に告白しそうになったあれ以来もう半年以上経っている。
きっと、みんな俺に配慮してくれていたんだろう。
そんなことにも気づけないほどに自分が恋愛でダメージを受けていたと思うと本当に情けなくなる。
了解とだけメールを返して俺は仕事をはじめた。
久しぶりの飲み会という楽しみと、皆川の目を見て話せるだろうかという不安の両方が俺の胸をざわつかせた。
「かんぱーい!」
「おつかれ~!」
カーンとジョッキのぶつかる音が耳に心地よく響く。
皆川の華奢な手がもつグラス、黄金色の液体が揺れ、きめの細かい泡が縁からこぼれそうになったところで彼女の口に吸い込まれていった。
その様を視界の端にとらえながら、俺は、案外落ち着いていた。
もっと揺れるかと思った俺の心は静かに乱れることなくそこにあった。
そのことに安心した俺はビールを一気に流し込んだ。
「良い飲みっぷり羽賀~、聞いたわよぉ、谷津さんと付き合ってるって~!」
今日は河辺の大声も気にならないほど店内はとても賑わっていたけれども、テーブルはそれぞれすだれや仕切りで区切られていて周りの目をきにしなくていい。
絶対聞いてくるだろうなと予想していた俺ははいはい、と流す。
それでも喰いついてくるのが女ってやつだ。
「谷津さんていい女だものね~。羽賀にはちょっと手におえないと思ってたけど、意外だわ~」
しみじみと河辺が言う。
それに皆川はうんうんと首を縦に振った。
隣の志村はというと会話に入る気が無い様で黙々と酒と料理を口に運んでいた。
事情を知っている唯一の友はいったい何を思っているんだろうか、と不思議になる。
「すっごいきれいな人だった!」
「でしょでしょ~!」
きっと心から祝福している皆川のその嬉しそうな顔をみてもへこまない自分がいた。それよりも、またこうして同僚として飲めていることが何より嬉しかった。
「出来る女って感じ!」
「すごいやり手みたいよ、商品知識も半端なくてお客さんからの評判もダントツだって、ね、羽賀」
「あ、うん。相当仕事できるよ、彼女。話聞いててもわかる」
勝手に盛り上がる女子の話に適当につきあいつつ酒をすすめる。
嘘をついている、というか、谷津さんの嘘に付き合っているというか…、皆川に本当のことを言わない事だけには多少良心の呵責はあるものの、お互いにとってはプラスなのだからこのままでいいと思い、そこそこに話に乗った。
男相手では情報がなかなか引き出せなくてつまらなくなった様で、気づけばいつもの仕事の愚痴に話は変わっていった。
きりの良いところでトイレに立つと、思いがけない人物に出会った。
時森さんだった。
トイレへの道の途中、男性と二人で話す彼女の姿。
最初は時森さんと気づかず、ただ単に男性が女性を口説いているような居酒屋ではよくあるような1ページだと気にも留めなかった。
「まだみんな飲んでるし…」
二人を通り過ぎたときに聞こえた彼女の声が俺を思わず振り向かせた。視界に入った女性は確かに間違いなく時森さんで、彼女もこちらを捉えた。
目があったが、男が一歩彼女に近づいたため、彼女も一歩下がり壁に背をぶつけた。一瞬合った彼女の表情は決して喜んでいる顔ではなく、不快感をあらわにしていた。
「いいじゃん、二人で抜け出そうよ」
トイレのドアを押す俺の耳にかろうじて届いてきた声は、酒のはいったねっとりとした男の声だった。
どうしたものか。